2017年1月8日日曜日

祈り(詩)


春風と花遊びに夢中な幼女(おさなご)の時が止まる。

幼女(おさなご)は瞳を潤ませた子牛に見つめられ、その子があまりにじっと見つめるものだから、自分と牛の違いがわからなくなった。


夕立が走った、

トラックの荷台から、潤んだ瞳が幼女(おさなご)をとらえる
夕立が上がった、
トラックは入道雲に呑み込まれ、うろこ雲が流され、寒空に幼女(おさなご)は待ち続けた。



友は

肉になるために旅立ったと教えてもらった。


友が

クリスマスの皿の中にいた、肉の塊となって。


これは

ありがたくいただく食物だと教えてもらった。


いただきますもぐ……もぐ

幼女(おさなご)は、毎日毎日、泣きながら、食べた。


いただきますもぐもぐ……むしゃむしゃ

乙女は、毎日毎日、悩みながら、食べた。


いただきますむしゃむしゃ……ぱくぱく

少女は、毎日毎日、自分を納得させながら、食べた。


いただきます…ぱくぱく…ぼりぼり…

娘は、毎日毎日、何も考えずに、食べた。


ぼりぼりぱくぱくむしゃむしゃもぐもぐ

女は、笑いながら、お肉を食べていた。


何かを間違ってしまった。


ぼりぼりぱくぱくむしゃむしゃもぐもぐ

ぼりぼりぱくぱくむしゃむしゃもぐもぐ

ぼりぼりぱくぱくむしゃむしゃもぐもぐ


なんてことをしんたんだろう


何度も何度も、毎日毎日、謝った。

涙は雨になり、祈りは風になった。

シトシトビュービュー



初めて幼子を見つけた、大きな瞳。

風に舞う花びらを追う、微笑む瞳。

トラックに乗せられた、哀しむ瞳。

肉片工場に押込まれた、怯える瞳。


潤んだ瞳はもう誰も見つめない。


何度も何度も、毎日毎日、謝り続けた。

シトシトビュービュー

シトシトビュービュー

大雨が恨みを流しても、

大風が間違いを吹き飛ばしても、



シトシトビュービュー

罪は消えない。

1 件のコメント:

  1. 数年前に「ひおき文芸賞」で優秀賞をいただきました。審査員の先生に感謝です。

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