私は虫が苦手。
虫と言えば昆虫だけど、蜘蛛は昆虫ぢゃない…虫けら。
しかし、動物世界の末端を担うモノ。
鹿児島県の加治木町のケンカ蜘蛛をテレビで見た。
黄と黒の段だら模様には魔力があるのか、
素手で「女郎蜘蛛」を大事そうに扱っていた。
私は画面を通して見ているだけでよい。
蜘蛛自体には美しさを感じないけど、
彼らの機織り技術には、美を感じることがある。
家の中にあると悪しき物も、幾何学模様の糸と糸の間から青空や太陽の光が見えたり、朝露がかかっていたりすると、真ん中に陣取る蜘蛛も宝石のように見えたりするから不思議。
また、巣に獲物がかかったときの彼らの迅速な行動、処理。神業に近い早業に拍手をおくりたくもなる。
しかし、唯一誉めるべきその技を使わない「蜘蛛」もいる。
ハエトリ蜘蛛
彼らは、待ち伏せではなく、なんと自ら獲物に向かっていく。
狩猟型クモ。
体もぶかっこうだけど、狩猟の仕方が、さらに、ぶかっかこう。
ピョンピョンはねて、獲物にむかう。
ときには、自分よりも大きいハエに挑戦するけど、失敗の確立が多い。
たまに、成功すると嬉しそうにくわえ、体液をチュウチュウ吸っている。
彼らは色も形も美しくはないけど、ユーモラス。
巣もはらない、そして、ユーモラスさえもない蜘蛛。
最悪な蜘蛛…。
アシダカグモ
彼と出くわすと私の身体は一瞬硬直してしまう。
足から足の幅は大人の手のひら位はある。
そのでかさだけでも醜さを充分演出している。
そして、灰色ともこげ茶とも言えぬ醜い色。
それが白い卵を抱えて家の壁や天井にじっと貼り付いていると、
私が餌になるわけでないのに、その部屋に入れない。
ちなみに彼らの餌はゴキブリだそうだ。
しかし、私は彼らがゴキブリを捕獲している姿を見たことはない。
夜、出会うと「巣を持っていないから、どこに行くかわからない、私の顔を這い回ったりしないだろうか」などと、ドキドキして布団に入れなくなってしまう。
しかし、父は夜この蜘蛛に出会うと「ヨロコブだ、福を運んで来る」とヨロコブ。
私は「ヨロコブ」の姿を見ても、ヨロコベない。
※ (鹿児島弁で蜘蛛を「こぶ」という。夜の蜘蛛で「よろこぶ」らしい)
数年前、甑島へキャンプへ行き、ログハウスに泊まったときに「アシダカグモ」が出てきた。
シュラフを床に敷き、横になって、さあ、寝ようと思ったとき、
哀しいかな、ものすごく大きいアシダカと目が合った。
もう、眠れない。
彼と私との距離150センチ。
しかも同じ床の延長上、つまり同じ高さにいる。
閉ざされた空間は、あまりにも狭い。
逃げ場がない。
しばらくにらめっこが続いた。
眠い…しかし、彼は身じろぎもせずに、じっと私を睨んでいる。
眠い…しかし、眠れない。
眠さゆえ、思いついたのが「タバコの煙大作戦」。
これなら、私が動かずに、しかも手やモノを使わずに彼を追っ払えるかもしれない。
タバコに火をつけた。大きく煙を吸い、彼に思いっきり吹っかけた。(※注)
煙で姿が見えなくなった。
次の瞬間、彼は素早い行動で、煙の間から現れ……、
なんと、数十センチも、ささっと、こちらに走りより、
しかも四本の前足を大きく曲げ、ググッと頭を持ち上げ、
その体を一層大きくして私を威嚇してくる。
なんという素早さ。
こんなに早く動けるとは…。
あわてて、もう一度、煙を吹きかけた。
まずかった。
彼はもっと私の方へザザッと走りより、威嚇する。
気がつくと、距離50センチ。眼がいっぱいある。
たくさんの眼で私を怒って見てる。
あ〜。ごめんなさい。
私は必死で謝った。
もう、煙なんかかけません。
だから、向こうに行って…。
そうだった…。あなたは「ヨロコブ」だったわね。
ごめんなさい。ごめんなさい(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)
虫けらと言えど、怒らせると恐怖である。
それから後のことはよく覚えていないが、朝、眠りから覚めたときには、「アシダカグモ」の姿はどこにも見えなかった。
私は虫けらよりも劣る。
※注 今はもう煙草も吸わないし、アシダカを見ても、そんなにびっくりしなくなった。がんばってるなって思える位には成長できたが、手に乗せたりはできないです。