2019年11月30日土曜日

 永久(とわ)の季節 ー終わりなき回遊ー (詩)

草の間に居残った夏を
長雨が流してしまった
蟹とバッタが夏を探している

木々に絡み付いていた夏を
すっかり風が吹き飛ばしてしまった
カラスが遊び半分に夏を追いかけている

砂浜に隠れていた夏を
波がさらっていった
夏を探しにきたクラゲは砂浜に置いてけぼり

野分が雨を抱きながら
徹底的に完璧に夏を掃除した

激しい風に飛ばされた蟷螂(カマキリ)が海に飲まれ
砂浜に打ち上げられ骸となると思いきや
蟷螂の命は尽き果てること許されず
羽も鎌もぐっしょり濡れて砂浜を歩き出す
波はおかまいなしに何度も蟷螂をさらう
海を彷徨(さまよ)い片目を失った蟷螂は砂浜に放られ
釣人が打ち捨てたフグの死骸の前に転がる
それならばと蟷螂は海に向かい歩き出すが
引き潮が波を海の向こうに連れて行った

黄昏は曇天に彩(いろどり)を授け海に入り込み
雲は混沌な海の端となって漂い続け
サイケデリックな雲は蟷螂を包み込み
蟷螂が命を終わらせることを許さない

数えきれない命を喰らい生きてきた蟷螂
残った片目に数えきれない恐怖が投影され
夜も終わらず朝も終わらない苛まれる日々に
蟷螂は夜も朝もやってこない季節を探し廻る

希望を解き放ち踊り狂う蟷螂
思考が錆び付き石ころになっても踊り続ける
時が無限に周り続ける

瞬間蟷螂はその季節に漂着する